2023年4月10日付の「Vientiane Times」の記事によると、チャンパサック県の当局は、パクソン郡において、土壌を劣化させる作物の植え付けを禁止したということです。
「Vientiane Times」の記事: Champassak bans planting of soil-degrading crops in Pakxong
記事の内容によると、禁止された作物は、キャッサバ、クアイホム(バナナの一種)、ジャトロファ(ナンヨウアブラギリ)、ユーカリなどで、チャンパサック県知事が署名した12ページに渡る決定書には、土壌の質を低下させる作物がこの地区で栽培されるのを防ぐために取るべき措置が明記されているということです。
パクソン郡は、チャンパサック県の県都パクセー市から東に約50kmの位置にあり、有機農作物やコーヒーの栽培で有名なボラヴェン高原の一部となっています。ボラヴェン高原は、数百万年前の火山の噴火によって形成され、標高1,000~1,350mに位置する、497,199haの高原で、肥沃で生産性の高い土壌を持ち、比較的涼しい気候で、観光地としても人気の場所です。
米国のメディアチャンネル「CNN」は、ボラヴェン高原を「世界で最も優れたコーヒー生産地のひとつ」と評し、「この地域は、生産されるコーヒー豆の品質だけでなく、その素晴らしい景観と活気ある民族文化によって、東南アジアで最高のドライブ旅行の目的地の1つとなっている」と述べています。
今回の決定の内容によると、キャッサバは、過剰な栄養分を吸収して土壌を劣化させる作物と認識されており、同じ土地で数年連続して栽培すると、土壌は著しく肥沃でなくなるとされています。また、クアイホムの栽培には、環境や人体に有害な農薬を大量に必要とするため、この作物は、今後、パクソンでの栽培が禁止されることになりました。
また、今回の決定では、農地の重要性を鑑み、他の土地利用への転換を防止する必要性を強調しており、農地を他の用途に転用する場合は、チャンパサック県の人民評議会において、国家と国民の利益になるとの判断と承認が必要となります。さらに、農地を建設や産業に利用することも禁止され、キャッサバを買うための場所として利用することもできないということです。
記事には、パクソン郡の耕地面積は151,150haで、そのうちの148,000haで農作物が栽培されており、県当局は、観光振興のための茶、コーヒー、有機栽培作物、薬草、花、寒冷地植物、水資源を保護する植物の栽培を奨励しているということも述べられています。
ちなみに、ボラヴェン高原は、チャンパサック県パクソン郡、セコン県タテン郡、サラワン県ラオガム郡の3郡にまたがっていますが、今回の通達が出たのはチャンパサック県の当局からですので、パクソン郡にのみ適用されます。そのため、ボラヴェン高原全体からすると、そこまで大きな面積を占める訳ではありませんが、パクソン郡でも、実際にキャッサバやクアイホムを栽培しているケースは珍しくありませんので、これまで栽培をしていた農家は対応に迫られることになりますし、今後、農地から他の用途への転換が更に難しくなったということで、農地の売買などに影響が出てくる可能性もあります。
キャッサバの栽培については、継続して栽培すると土地が著しく劣化することは広く知られていますが、栽培が非常に容易であり、且つ、安定した一定の需要があるため、他の作物からキャッサバの栽培へ転換する農家が増加するという問題は、これまでにも東南アジアの各国で大きな問題とみなされてきまきした。
ラオスのボラヴェン高原においても、年々、キャッサバを栽培する農地が増えており、記事中にも出てきた「キャッサバを買うための場所」も増えてきていました。この「キャッサバを買うための場所」というのは、キャッサバを買い付けたい企業が主要道路沿いなどに工場のような広い場所を設けて、道路沿いに買い付け値段などを表示したりして、売りたい人はトラクターなどに乗せて運んできて売るというような場所で、その敷地内で、キャッサバをチップ状に乾燥させたりする加工を行っている場所もあります。
ボラヴェン高原の中でも、特にパクソン周辺は観光資源も多く、農業と並んで観光業も主要な産業となっていますので、持続可能な産業の発展を考えた場合には、早めに手を打っておくという、今回のチャンパサック県の施策については、英断であったという気がします。パクソン郡内で、キャッサバやクアイホムなど、今回禁止された作物を栽培していた農家にとっては、一時的には困難なこともあるかもしれませんが、やはり、長い目で見れば、良い政策なのではないかと思いますし、今後、より良い方向に、農業、観光業が共に発展していってほしいと願っています。