2018年2月27日のweb版のVientiane Timesの記事によると、「政府はラオスの最高レベルのシンクタンクであるNERI( the National Economic Research Institute)に対して、国内のSEZ(経済特区)について、その長所・短所の両面の調査を行うように要請した」とのこと。
NERIは調査後、SEZの問題点の改善方法や新たにSEZを作るべき場所などについて報告するとのこと。
シニアエコノミストでありビジネスアドバイザーでもあるDr.Manaは「SEZは、税制面で優遇があり、投資の誘致に成功してきた。SEZ内には必要なインフラや施設があり、ワンストップサービスにより新規ビジネスの登録が1日で可能。そのおかげで、生産をより迅速に開始できる。」と述べています。
更に「政府はSEZを多く作り過ぎた」と指摘しており、「SEZの設立に優先順位をつける」ことを推薦している。「このように多くのSEZがあれば、適切に規制するのが困難になる」とも述べています。
ちなみに、2017年12月時点で、ラオス国内には12のSEZがあり、その後も新たなSEZの計画がいくつか発表されていて、その中には、ラオス南部のシーパンドンに観光SEZを作るという話や、パクソンに農業SEZを作るという話もあります。
彼の指摘は非常に重要な視点で、実際、全てのSEZ内に必要なインフラや施設が整っているか、ワンストップサービスが適切に提供されているか、という点については、多くの疑問があります。
ラオス全体の発展のため、投資誘致のために、SEZをどんどん作りたい気持ちもよく分かりますが、現在あるSEZの現状を把握し、それらのサービス向上も同時に進めてもらいたいと思います。
パクセーにあるPakse-Japan SME SEZについて言えば、確かに、投資に際して、SEZ内とSEZ外では明らかにSEZ内の方が楽です。投資手続きも、投資後の各種手続き(税金、輸出入など)も、SEZ外の状況と比較すると、非常に優遇されていると思いますし、実際、SEZ事務局も、よく頑張ってくれていると感じます。
ただし、2015年12月に正式に調印式が行われてから2年以上経ちますが、まだまだ他のSEZではSEZ事務局がやってくれるのにパクセーでは出来ない、ということも多々ありますし、原産地証明やビザの手続きなどビエンチャンに行かないと出来ないこともたくさんあります。
結局、それぞれのSEZのデベロッパーや管轄のSEZ事務所の力量によって、サービスの質が違っているのが現実で、ラオス政府やMPI(計画投資省)も、現時点でさえ、全てのSEZの状況を把握出来ていないし、そう言った問題をフィードバックするシステムも出来ていないということなんだろうと思います。
また、Dr.Manaが指摘している通り、SEZ内とSEZ外での不公平感も確かにあります。
日ラオ官民合同対話でも、ラオスにSEZが出来る前に投資をした企業から、SEZ外の企業にも同じよう対応して欲しい、という意見が出ていました。
さらに、どうしてもSEZ内では起業出来ない、したくない企業もあります。SEZ内になると、確かに設備が整っているけど、そのために初期投資の額が高くなる場合もありますし、原材料の供給地点が遠かったり、現時点ではまだSEZのないボラヴェン高原での農業投資なども考えられます。
そのような企業にも積極的に投資を検討してもらうには、やはりSEZ外への投資の場合にも、最低限の一定のレベル以上の投資しやすい環境を整えることが必要なのだと思います。
現在のラオスにおいて、SEZ外への投資は、投資手続きの面でも、投資後の各種の日常的な手続きなどの面でも、非常に手間がかかりますし、特にビエンチャン以外の外国投資に慣れていない地域への投資は、正直おススメ出来ません。
ラオス商工会議所の副会頭であり国会議員でもあるMr.Valyの「各県には違った特徴やポテンシャルがあるのに、SEZのインセンティブは同一であり、この点については反対である。各SEZの特徴を研究し、各SEZに特徴のあるインセンティブを提供するべき」との意見には、確かに一理あると思う反面、全てのSEZで、最低限の一定のサービスを的確に提供することを、まずは目指すべきじゃないかと思います。
さらに言うと、各県の役人のレベルは、はっきり言って、そんなに高くありません。ビエンチャンはビエンチャンで問題ないとは言わないけれど、地方の役人と比較すると、レベルは高いです。パクセーに来てみて、この点に関しては、痛感しています。
このような状況で、各県で違ったサービスを提供する、ということになると、いろんな問題が発生しそうな気がします。
まあ、役人の能力の話になると、どうしようもないというか、まずは、ラオスの公務員の能力・意識の向上が不可欠という話になってくるので、また、これは別の機会に。
そして、驚いたのが、「現時点で12のSEZでは350のラオス及び外国企業が投資しており、14,699の仕事が生み出されて、7,564人のラオス労働者が含まれる」と。
7,564人って、予想よりだいぶ少ない。こんなもんか、という感じ。
ほとんどラオス人を雇用していない企業が多いのか?工場などの生産系だと、少なくとも30~50人とか雇ってる工場が多いと思うし、大きければ何百人ということも。ということは、あまりスタッフのいらないサービス業が多いのかな。
それとも、登記したけど、まだ人を雇ってない企業もあるとか?
やはり、ラオスにとっては、投資金額も重要だろうけど、雇用の創出という面も非常に重要だと思うので、この辺りは、ちょっと調べてみようかと思います。
何はともあれ、ラオスのSEZについて問題意識を持っているラオス人はいることはいいことだと思うし、とりあえずSEZを乱立する、みたいなことにならず、適切に着実にSEZがラオス全体の発展に寄与するように運営されていくことを願います。
Vientiane Times: http://www.vientianetimes.org.la/FreeContent/FreeConten_Economists.php
素晴らしいレポートです。今後も続けてください。
コメント1.「特区外」にも特別基準を、というのは「特区」の法的側面を理解していない議論ですね。
コメント2.長年にわたって「特区」で経済発展を遂げた近隣諸国の例や、最近のミャンマーの例がある程度は参考になると思いますが。ミャンマーでは数は少ないが急速に外国投資を呼び込んでいます。
コメント3.日本でも「特区」制度は古くて新しい論点になっています。第1号の沖縄の特区は成功事例とは言えません。東日本の「復興特区」による復興政策の功罪も専門家の議論になっているところです。最近は、強引な政府の特区の配分が(怪しい)政治的配慮によってなされるケースもあり、物議をかもしています。
豊田先生、コメントありがとうございます。
1.そうですね。そもそも「特区」の意味がなくなりますし。この「特区」での投資誘致は、一定の効果をもたらしていると思いますが、ラオス政府が、本当に外資の誘致で経済発展したいのであれば、「特区」だけでは効果は限定的になると思うので、「特区」の優位性をうまく使うと同時に、まずは、それ以外の地域への一般的な投資に対しても、手続きの煩雑さの解消や公務員の能力や意識の地域格差の解消が不可欠な気がします。
2.何年か前は、日本からの投資の際に、ラオスかミャンマーか、という話をよく聞きましたが、ある時点から一気にミャンマーに離された感があります。当然、港があることや人口が多いことなど色々な要因があるのでしょうが、この「特区」の関しての政策というのもあるのですね。この辺りも、調べてみたいと思います。
3.この政治的配慮というのがラオスでも当然あって、一番はやはり中国からの投資です。新しく作ろうという特区の多くは中国のデベロッパーありき、という感じです。ラオスは特区を作りたいけど財源がない、中国はどんどん投資して勢力拡大したい、という両者の思惑が一致しているのでしょう。ただし、最近では、一部の特区では中国のデベロッパーの開発が一時ストップしているという話や、かなり進捗が遅れているという話もあって、今後の動向が気になるところです。