ラオスの最低賃金が110万KIP(約14,700円)に値上げされることが決定しました。

これまでの流れとしては、「ラオスの最低賃金について」でご紹介したように、1月末の労働社会福祉省、労働組合連盟、商工会議所の3者会議で最低賃金の値上げを政府に提案していました。

その後、ラオス人の間では、「5月のLabor Dayに値上げされるのではないか」、「さすがにそれは早すぎるので、12月の建国記念日ではないか」、「値上げ後の金額は、真ん中を取って、110万KIPだろう」など、色々な噂が流れていました。

そして、4月20日、首相府から各大臣、県知事などに宛てた通達が出ました。主な内容は、「最低賃金を90万KIPから110万KIPに改正すること」「実施は2018年5月1日からとすること」「労働社会福祉省は中心となってフォローすること」というようなことでした。

この通達は、各大臣や県知事に向けたものでしたが、Facebookなどでこの通達の書面がシェアされ、23日頃には拡散していました。

 

通常、企業や一般市民に向けての正式な通達は、労働社会福祉省から改めて発布されるはずなので、この時点ではまだ詳細は分かっていませんでしたが、なんとなく「5月から最低賃金が110万KIPになるらしい」という情報だけが広まっている、という感じでした。

 

そして、2018年5月2日付のweb版のVientiane Timesでは、 「ラオス労働組合連合(LFTU)、労働社会福祉省、ラオス商工会議所の代表が出席した月曜日の記者会見で、ラオスのすべての企業や工場では、労働者の生活水準を向上させるために、5月1日現在の最低賃金を現在の90万KIPから110万KIPに引き上げる必要があると、最低賃金の上昇を発表した」と報じられました。

記事のタイトルが「企業は5月1日の最低賃金引き上げを遵守するよう求めた」とあるように、「労働社会福祉大臣のDr. Khamphengは、もし新しいルールに違反していると判明すれば、労働法の元、LFTUや労働社会福祉省などの関連部門と協力して、警告や罰金、もしくは事業ライセンスの停止さえもあり得る、と述べた」とのことで、今回の値上げについては、法令順守に対して強い表現をとっているように思われます。

さらに、カギカッコ付ではないので大臣の発言なのか、Vientiane Timesの意見なのかは不明ですが、「最低賃金とは、雇用主が未熟練労働者に合法的に支払う最低の報酬であり、 雇用者が支払う福利厚生は含まれていない」「賃金の上昇は、労働者の生活状況を改善し、毎月の価格上昇に伴う出費の上昇による困難を和らげるために、不可欠であると考えられる」という内容も書かれています。

また大臣は「賃金の上昇は、仕事を求めて近隣諸国で働いている労働者の関心を引きつけ、賃金がより高いラオスで働く気にさせる」、「月90万KIPは生活するには不十分で、多くの物品はどんどん値上がりしている」とも述べたとのこと。

また、LFTUの代表であるVongnorbountham氏は、「近年、政府は最低賃金の引き上げを承認したが、食料品や消費財の価格の上昇を防ぐことはできなかった。」「雇用主は、労働者のおかげで利益を得ることができるのであり、雇用主は労働者に共感し、彼らの状況を改善するのを助けるべきだ」と述べたとあります。

Vientiane Times: http://www.vientianetimes.org.la/sub-new/Previous_099/FreeContent/FreeConten_Business.php

この記事は、ラオス労働組合連合(LFTU)、労働社会福祉省、ラオス商工会議所の代表が出席した記者会見についての記事なので、当然、労働者保護の視点の内容のみなのは当然ですが、ここ数年何かにつけて強調されている「近隣諸国に出稼ぎに行っているラオス人労働者をラオスへ戻ってこさせること」や「物価の上昇」を強調しているのは、予想通りというところでしょうか。

LFTU代表の発言からも、社会主義国であるラオスでは「労働者の権利を守る」ということが大きな力を持っていることが分かります。最近は、首都ビエンチャンと地方都市とでは、労働環境などに格差が出てきていますので、基本的に私の住むチャンパサック県周辺の状況についての意見ですが、賃上げや労働環境改善のためのストなどが起こることは、今のところ、基本的にはほぼないと言っていいと思います。国民性も穏やかで争いを好まないので、労働者が雇用主に対して強い要求をすることも、ほとんどありません。なので、日本企業からすると、ラオス人は非常に扱いやすいと認識されていて、工場運営がやりやすいというのがラオスへの投資の利点の1つとなっています。

また、労働者が会社に何かしらの不満があったとしても、労働局に訴え出るというようなことは、ほとんどありませんし、工場で働くいわゆるワーカーのレベルの人たちが労働法を詳しく知っているということも稀です。なので、実際には、企業と政府の労働関係の部署がもめたり、当局から指導が入ったり、役人が工場にチェックしに来たり、というようなことも、ほどんとありません。

ということで、労働者が「権利を守られている」と思っているか、労働関係の当局が普段から労働者の権利保護のために積極的に動いているかと言うと微妙なところですが、今回の記者会見の内容などを見ると、こういう時に存在価値を示そうとしているんだろうなあと感じました。

「近隣諸国で働いているラオス人を呼び戻す」という観点からすると、今回の値上げくらいで、何か大きな効果があるとは考えにくいです。現状では、給与水準や生活環境などを考えると、ラオスに戻って来る要因にはなり得ないし、更に戻って来たとしても、働く場所が少ないのが現状です。

ラオス政府としては、外国からの投資を促進するために「人口が少ないので労働者を確保出来ないのではないか」という懸念を払拭したい訳ですが、まずは、働ける場所を作ることをやらないと、なかなか難しいのではないかと思います。更には、働きたい人と、労働者を探している人とのマッチングに対して、現在の県・郡レベルの労働局は何の役割も果たしていません。働きたくても、口コミや看板などしか情報がない。労働者を集めたくても、村をまわったり、看板を出したり、口コミでしか集められない。このような現状をまずは改善していく必要があると感じています。

そして、物価の上昇という点において、確かにビエンチャンでは値上がりしていると聞きます。しかし、チャンパサック県に住んでいる分には、全く値上がりしていないとは言いませんが、それほど日々の生活に必要な商品の急激なそして持続的な値上がりを実感していません。たしかに、ビエンチャンに住んでいれば、月90万KIPではしんどいんだろうなあ、とは思いますが、現状、ビエンチャン近郊で、最低賃金90万KIPのみで働いている人は、そんなに多くないのではないでしょうか。

そして、地方はどうなのか。例えば、チャンパサックに投資している企業は、正直ビエンチャンから遠く、色々な面で不便であるにも関わらず、賃金の低さを求めて、敢えて進出している訳です。そこで賃金の安さというメリットがなくなってしまえば、ここに進出するメリットがあるのか…ということにもなります。どこの国でも、首都の人の意見に引っ張られて色々なことが決まる、というのは有りがちなことですが、以前の記事にも書いたように、やはり、ラオスもそろそろ地方による最低賃金の格差を設けてもいいのではないかなあと思います。