ラオスのJ&C Groupによる、電気料金についてのデータ分析による考察が記事になっていました。
非常に興味深い内容ですので、共有します。
原文: What Does The Data Tell Us About Electricity Pricing In Laos?
この記事は、筆者が、ラオス銀行、エネルギー鉱業省、ラオス統計局、ラオス電力公社、世界銀行のデータを分析し、ラオス国内における発電所の数は年々増加しており、当然、発電量も増加しているにも関わらず、電気料金は上昇傾向にあることについて説明しています。
また、なぜ、そのようなことが起こっているのかについての考察も行われており、現在のラオスの電力関係の事情が簡潔にまとめられています。
原文の中には、グラフも多く配されていて、分かりやすくなっていますので、ご参照下さい。
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筆者のまとめによると、ラオス国内の電力の総出力は、2013年から2019年にかけて約2倍になっています。
一方、電気料金は、2013年から1018年にかけて毎年上昇しています。2019年に貧困層の電気料金を抑えるための政策として、ひと月の使用量が150kWh以下の家庭の電気料金を下げるなどの価格構造の改訂を実施したため、この年は下落しましたが、2021年には、また上昇しており、今後も上昇傾向が続くと予想しています。
要点としては、
ラオスは2019年時点で国内に94の発電所があり、総発電設備の容量は9,000MWだったが、その3分の2は輸出専用だったこと。
そして、この電力量のうち、ラオスの電力公社が保有するものは比較的少なくて、発電された多くの電力は、商業的な投資プロジェクトが所有していること。
さらに、この投資プロジェクトによって発電された電力は、「take or pay方式」による購買契約によって、必要かどうかに関わらず、電力公社が全て買い取ることになっていること。
加えて、これまで電力公社が需要と供給に関しての適切な調査や分析を行ってこなかったこともあり、雨季は供給過多になる一方、乾季には電力不足になること。
そして、電力不足になる乾季やラオスの電力公社の送電網に接続されていない地域などでは、逆に電力を輸入していること。
さらに、その輸入電力の価格は、輸出している電力の価格よりも高くなっていること。
輸入している電力は全体からすれば大きな割合ではないが、電力の料金が高くなっていることの一因になっている可能性があるということ。
また、投資プロジェクトは、発電事業を担っているため、発電のみを行い、送電設備への投資は行わないことがほとんどのため、基本的に送電網や設備、近隣諸国への輸出のための設備などは電力公社が整備することになる。
その費用は当然、電気料金に上乗せされることとなり、電力料金を引き上げる要因となっている。
次に、ラオスの電気料金のビジネスへの影響についても言及されていいます。
ラオスの電気料金の価格は、家庭消費、農業、教育、娯楽のカテゴリーごとに料金が分けられており、政府の方針で、農業事業者の電気料金は低く設定されている。
一方、家庭消費は累進制で多く使えば使うほど高くなるように設定されており、一般事業者は農業の3倍、娯楽事業者は農業の4倍の価格となっている。
世界銀行のデータによると、ラオスのビジネス利用の電気料金は1kWhあたり13.2ドルであり、タイは13.7ドル、ベトナムは12.5ドルとなっている。
ラオス政府は貧困からの脱却のために、収入と雇用を創出するための知識ベースの投資を促進しており、そのために、生産コストを下げ、競争力を高めるためには、電気料金の値下げがその一助になる。
特に、観光業者としてホテルレストラン協会の会長の言葉として、「観光業は、主な外資獲得や雇用創出をしている業種であり、観光関連業者の電気料金を他の振興セクターと同じ程度まで値下げするべき」という意見を紹介している。
さらに、現在は水力発電に大きく依存しているラオスにおいて、今後の電力供給の安定のためには、風力や太陽光など発電スキームの多様化をすることの可能性にも言及しています。
メコン地域では、これらの自然エネルギーの価格は低下してきており、多様な発電スキームを慎重に選択し、エネルギーに関するマスタープランを改善することで、ラオスの電力を輸出するという目的を実現しつつ、より安価なエネルギー価格にアクセスできるようになるのではないか、というコンサルタントの意見を紹介しています。
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ラオスへの投資、特に製造業への投資を考える際に、必ずと言っていいほど挙げられる利点の1つが、周辺国に比べて、比較的「電気料金が安い」もしくは「電気の供給が安定している」という点です。
電気料金については、文中の数字を見ると、タイよりは少し安く、ベトナムよりは高いようですが、実際にラオスとよく比較されるカンボジアやミャンマーの数字がないので、そちらとの比較は不明です。
また、各国、投資誘致のための色々な政策がありますので、経済特区や特定の産業に対する電気料金の優遇措置などもあるかもしれません。
ラオスの場合、少なくとも、農業事業に関しては、電気料金の価格の優遇があるようですので、農業分野への投資、特に日本の技術を活かした、付加価値の高い農産物を生産する、というようなプロジェクト、特に温室や野菜工場など、電気を使用する事業に関しては、優位性があると言えるかもしれません。
また、ラオスの電気料金がタイよりは少し安いものの、ベトナムよりも高いというのは、経済発展の度合いや一人当たりGDP、また、主な発電方法が水力発電であり火力発電よりは発電にかかるコストが低いはずであることなどを考えると、ラオスの電気料金は、相対的に見ても、やはり高いと言わざるを得ないかもしれません。
停電については、文中にもあるように、確かに「ラオスはアセアンのバッテーリーになる」という政府の方針の基、発電所が多く作られ、発電量は十分に足りている(ように見える)ため、都市部では、電力不足による停電というのは、ほとんどありません。
ただ、実際は、述べられているように、もし隣国からの電気の輸入がなければ、乾季には電力不足による停電が起こるのかもしれません。
雨季の時期に、暴風雨による電線や送電設備へのダメージによる停電というのはありますが、以前に比べれば格段に少なっていますし、停電になった場合でも、復旧までの時間はかなり短くなっています。
これは、パクセーに住んでいて、住環境の改善という意味では非常に実感しています。
また、工場などについても、以前は、突然の停電で操業計画に支障をきたす、などの問題がありましたが、現在は、計画停電については事前の通知がされるようになっていたり、突発的な停電の場合の復旧も速やかに実施されるなど、状況は年々改善されているように感じています。
(※記事の上の写真は、雨季の暴風雨によって、木が倒れて、電線が切れてしまっている様子です。ラオスでは、こういうことが珍しくないのが現状です)
実際、電気料金の値上げが発表されると、ラオス人の間でも、やはり、「電気料金が高くなった」というような話が話題に上ることがありますし、電力をタイから輸入していることについても、ラオスに住んでいれば一般的に知られていることではあります。
しかし、ラオスに住んでいなかったり、情報収集されてる人には、あまり知られていない事実でもあると思いますので、共有させて頂きました。
ラオスへの投資を検討される場合、特に製造業などの場合には、電力の供給状況というのは、検討材料の1つになるかと思いますが、その業務内容や投資場所などによっても、料金や状況が変わってくる可能性がありますので、その点を考慮して調査されることをおすすめします。